実録
ライターの生活

 いつまでたっても、すねかじり 

我が家は、ダンナとワタシともにフリーランスというヤクザな夫婦である。
一家にサラリーマンがいない生活なので、時間の制約を受けるのは子供を保育園へ送り迎えするときぐらい。それさえこなせば、あとは昼夜・曜日を問わず、好きな時間にそれぞれが自分の仕事をこなすという、はなはだ不健康で気楽な生活を送っている。

そんな一見自由な生活の代償は、唐突にやってくる。
「連帯保証人を立てていただけますか」
連帯保証人。つまりは、「おめーらだけじゃ心配だから、イザってときに責任とってくれる人を差し出せ」ってことである。
フリーランスでいる限り、お金の後ろには「保証人」の文字がついて回る。
新しく部屋を借りる/更新する。コピーなどの機材をリースする。
新しいパソコンを買うために、ちょっとまとまった金額のローンを組む。
こういった事あるごとに前のセリフを聞かされるのである。もはや耳にタコだが、抗っても勝てるわけなく、おとなしく従うしかない。

そりゃあ、帯付きの現金をポンと机に乗せて「これでよろしく」とふんぞり返れるものならば話は早いが、こちとら年中じっと手を見てばかりの不定期収入。入金直後に通帳を見てニンマリできても、3ヶ月後には同じポーズでため息をついてるかもしれないのだ。

小心者の経理担当(ワタシ)としては、一度にドカンと金が出て行くより、多少手数料がかかろうが月々の出費をならしておくほうが安心。
ローンや分割サマサマである。
と、自分自身に言い訳してみても、いいトシをした夫婦が還暦を過ぎた親に保証人を頼みにいく肩身の狭さはゴマカシようがない。
自然と声のトーンも落ちるというものだ。

玄関を入ったときから、演技力勝負の攻防は始まる。
寡黙な父親は、たいてい2つ返事で保証人を引き受けてくれるが、「いつまで世話やかすんだ」と思われていることは見え見えである。かなり居心地悪い。
けれど、とりあえずハンコをいただくまでは、ちょっと背なんぞ丸めた神妙な態度を保っていなければならない。

帰り際には、とびきりゴツいハードルが待ち構えている。
「アンタたち、ちゃんと生活していけるの?」と、母親から背中に浴びせられる追いうちパンチ。かなりこたえるボディブローだが、ここで腹を立てたり、弱気な態度を見せるのは禁物だ。意に介さずという調子で「大丈夫、ダイジョーブ」と笑いとばしてみせなければ。ここでドジるわけにはいかないのだ。ハンコをついた書類を無事提出するまでは、忍の一字である。
もちろん、大丈夫という言葉の保証はどこにもない。来年、いや明日のことだってアタシにゃわからんもん。フリーの収入なんてのは、世間はもとより、親や自分自身にさえも信用してもらえないものなのである。


Menu
その2
Home

泣く子と〆切 | トホホ | ライター講座 | いいヒト | 著作リスト | Profile | 歳時記 | 365Days | BBS | 情報LINK
ご意見、ご感想は web@kitayu.com まで
Copyright(C) 2001-2004 yukari kitayuguchi All Rights Reserved.
Go to Home