泣く子と
〆切にゃ勝てぬ

真夜中の戦い


寝ない。…まったく寝ない。
どうして、ウチのガキはこんなにも寝たがらないのだ。
「コイツが静かになったら、続きを書こう」と、もくろんでいるハハの焦りを知っての狼藉かい。

ポンポンとそっと背中を叩いていた手に力がこもり始め、「おやすみ」と声をかけながら作る笑顔はひきつってくる。
お願いだから、母心とサービス精神が残っているうちになんとか寝る気をみせてくれよぉ。そうそう、そのまま静かに目を閉じて…だから、なんでまた目を開いてしまうのよ。頼むよ、だんだんとイライラしてきたよ。

あー、まったくもう。はやく寝てくれぇぇぇっ。
我が家では、いつも寝る前の儀式が長い。宵っ張りのムスコは、電気を消して、添い寝をしないとふとんにさえ入らない。「おかあさん、大好き」と、ハハの胴体にしっかりとしがみついて寝るのが好きな甘ったれだ。
余裕のあるときは母心をキュンとさせるそんなしぐさも、〆切前のハハにとっては悪夢。赤子時代にクセをつけてしまったのはワタシだからして、今さら後悔してもあとの祭りだってことはわかっているけど。ああ、それだけど。

かくなるうえは、またいつもの必殺技「オバケが来るぞ」攻撃か。
なんともはや。自分勝手なハハと、学習力のないムスコである。

執拗なまでに開けようとしていた目も、時間の力には逆らえず、やがてトロンと閉じて、スーと寝息を立てる。ようやくあきらめたか。さて、お仕事、お仕事。

しかし、佳境に入ったところでイヤな物音がするのだ。
ガサッ、バタン。ペタペタペタ。
振り返ると、そこには案の定ムスコの姿。しまった、眠りが浅かったか。

そっと様子をうかがうと、半べそなのか眠いのか、しきりに目をこすりながら、バリケード代わりに仕事部屋の前に積み上げられた本を乗り越えようとしている。
ムスコよ、なぜにそこまで。そこに山があるからか。

こうなったら、ハハのとる行動は一つ。「はい、はい、はい、はい」と気の抜けた声を発しながら、腰を浮かし、ムスコを抱き上げて、ふとんの中へと押し戻して添い寝のやり直しである。パソコンの前に来させたら最後、お遊びタイム再び、となるのは目に見えているから。あー、またチクチクと胃が痛む。眉間にしわが寄る…。
「おーい、ちょっとー」
寝室からダンナが私を呼ぶ声が聞こえたら、次の儀式のはじまり。
緊急おねしょ警報が発令されたのである。
母ゆずりの寝相で転げまわるせいか、おざなりのおねしょシーツなどほんの気休めにしかならない。あっちゃあ、背中までぐっちょり。また、着替えかいな。

あれだけ寝るのをイヤがるくせに、いったん寝入った我が息子は鈍感である。身体を起こしたり、転がしたりと、多少手荒にしても目を覚ますことはない。

でも、たぶん「着替え」の意識はあるのだろう。シャツを首にかぶせれば、条件反射のように腕を通そうと動かしてくる。よくできた息子だ。自画自賛。

ぐにゃぐにゃになった身体をふとんに寝かせたついでに、ちょっとイタズラ心を出して、耳元でささやいてみた。
「フォッ、フォッ、フォッ、フォッ」。
ムスコのまぶたは閉じたまま、腕を十字に交差してから、満足そうに微笑む。

今日もまた彼は、夜中に襲ってきたバルタン星人をスペシウム光線で撃退したらしい。それじゃ、今度こそ朝までおやすみ。

そして朝。立場は逆転する。
「おかーさん、起きてよー」。
やめてー、寝たのは明け方なんだよー。お願い、あと5分。

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